広島高等裁判所 昭和42年(行コ)9号 判決 1968年3月27日
広島市愛宕町九番二一号
控訴人
太田清
右訴訟代理人弁護士
椎木緑司
同市上八丁堀六番三〇号
被控訴人
広島国税局長
宇佐美勝
右指定代理人
赤木誠一
同市大手町四丁目一番七号
被控訴人
広島東税務署長
綿重三郎
被控訴人両名指定代理人
山田二郎
同
池田博美
同
伊藤教清
同
常本一三
同
広光喜久蔵
同
岸田雄三
右当事者間の昭和四二年(行コ)第九号所得税更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人税務署長が控訴人に対し昭和三八年一二月一日付でした控訴人の昭和三七年分所得税額を八四万一三二〇円とする更正処分および過少申告加算税四万一二五〇円の賦課決定を取り消す。(三)被控訴人税務署長が昭和三九年四月八日付でした控訴人の前記処分に対する異議申立を棄却した決定ならびに被控訴人国税局長が同年六月二二日付でした控訴人の前記棄却決定に対する審査請求を棄却した決定をいずれも取り消す。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人両名指定代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は、次の点を附加する外は、原判決記載のとおりである(ただし、被控訴人ら指定代理人の答弁および主張二、の内措税特別措置法を租税特別措置法と訂正し、控訴代理人の乙号証の認否について、検乙第一号証の一、二が広島市愛宕町二一四番地二一五番地の仮換地上の建物の写真であることを認める、と付加し、別表(二)順序6の種類欄を「法第九条第一項第八号」と訂正する。)から、これを引用する。
一、控訴代理人の主張
(1) 被控訴人ら主張の配当所得は、株式名義人の如何にかかわらず、実質課税の原則により、控訴人の所得とすべきである。
(2) 被控訴人らの主張する給与所得は、太田正孝が有限会社劇団新人会から得た出演料をいうものであるが、これは同人の一個の俳優としての事業所得に該当する。同人は、右事業の経費として交通費研究費等一二万七六〇〇円を支出しているので、差引六万三一七九円の損失となっている。
(3) かりに、これが給与所得に該当するとしても、所得税法八条二項の所得とは、総収入から税法上必要な控除をした課税標準額の合計をいうものであり、給与所得においては、同法九条一項五号により、年間の収入金額から一万円を控除した残額の十分の二に相当する金額に一万円を加えた額を差引いた額を課税標準額としている。したがって太田正孝の給与所得が六万四四二一円とすれば課税標準額は四万三五三七円である。
(4) 以上の次第で太田正孝は控訴人の扶養親族である。
二、被控訴人ら代理人の主張
1 太田正孝の出演料収入は、劇団新人会の演劇に同人が出演して同会から支払を受けたものであり、給与所得に当る。
2 仮にそうでないとしても、控訴人主張の経費は当該収入を得るため必要なものではないから、収入から控除すべき必要経費には該当しない。
三、証拠
控訴代理人は、当審で甲第二七号証の一ないし二四、第二八号証、第二九、三〇号証の各一、二、第三一ないし第三三号証、第三五、三六号証、第三七号証の一ないし四、第三八号証、第三九号証の一ないし四、第四〇号証の一ないし五、第四一号証の一ないし三を提出し、当審証人太田正孝の証言、当審における控訴人本人尋問の結果、有限会社劇団新人会および株式会社広島銀行的場支店に対する各調査嘱託の結果を援用し、被控訴人ら代理人は、前掲甲号証中第三一号証、第三五号証、第三七号証の一ないし四、第三八号証の成立は不知、その余は成立を認める、と述べた。
理由
一、当裁判所も、控訴人の本訴請求を失当とするものであって、その理由は、次の点を訂正、補充する外は、原判決説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 控訴人の本件所得が改正前の租税特別措置法所定の場合に該当する、との主張部分(原判決七丁表一一行目から裏三行目まで)を、「ところで、控訴人(原告)は、前記事実が同条(右改正前のもの、以下同じ)にいう個人が居住用財産を譲渡し、その年の一二月三一日までに、当該個人の居住用の財産を取得した場合に該当する、と主張するが、」と訂正する。
(2) 太田正孝の配当所得に関する部分の判断(原判決七丁裏四行目から一一行目まで)を次のとおり訂正する。
成立に争ない乙第六号証および当審における控訴人本人尋問によれば、太田正孝名義の日立造船等の株式について昭和三七年中に計六万〇六七四円の配当があったこと、控訴人は控訴人および子の太田光治名義の株式については同年中の配当金について控訴人の配当所得として申告しているが、前記正孝名義分の配当金についてはその申告をしていないことが認められ、右の事実に徴すれば、前掲六万円余の配当所得は正孝の所得であると推認するのが相当である。
(3) 当審における証人太田正孝の証言および控訴人本人の供述中以上の認定に反する部分は信用しがたい。
二、よって、行政事件訴訟法七条、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮田信夫 裁判官 辻川利正 裁判官 丸山明)